ここでは足のリハビリと自己トレーニングの内容を詳しくご紹介します。目次をクリックすると各項目へ直接移動することができます。また、模式図をクリックすればそれぞれの拡大図をご覧いただくこともできます。内容に関してご質問等がある場合はお問い合わせページからご連絡下さい。

目次
ベッド上での体位
リハビリ
 ●転院前
 ●転院後
  ・立位
  ・歩行
  ・立ち上がり
  ・階段昇降
  ・その他のリハビリメニュー
  ・自己トレーニング

ベッド上での体位

ギラン・バレー症候群で長期間寝たきりになった場合、「立つ、歩く」という動作に重点を置いて考えると、ベッドで寝ている際の姿勢から気を付けていく必要があります。

特に、

・足首を伸ばさない
・膝を曲げない

この二つは寝たきりの期間中、極力実践していただききたいと思います。寝ていると足首は自然と伸びた状態になるため、私は図1のようにベッド柵を利用して、常に足首が90度程度曲がるようにしていました。
ギラン・バレー症候群, ベッド上での体位
実際、図1の状態ではかかとに圧が集中し、痛みが出たため、試行錯誤を繰り返して図2のようなセッティングにしていました(皮膚が赤くなったり、痛みが出たまま放置すると褥瘡(じょくそう:床ずれの事)の原因になりますので、早急にセッティングを検討する必要があります)。
ギラン・バレー症候群, ベッド上での体位
左側に体交枕(たいこうまくら:体位を保持するために用いられる)を入れ, やや右向きになっている場合.
・左足の下(膝の下辺り)にクッションを入れ, かかとを浮かせる. なるべく膝が曲がらないように注意する.
・右足は, 外側全体がベッドに接するように(くるぶしがベッドに接するように)する.
・ベッド柵と足の間にクッションを入れ, 足首が90度程度曲がるようにする.

私自身、入院してからの約2ヶ月間は膝を曲げたまま、足首も伸ばしたまま寝ていることもしばしばでした。担当スタッフからベッド上の体位を早急に改善するように指導されたのはその頃でした。2ヶ月の間に膝と足首は既に硬くなり始めていたようです。体位を改善せずにいたら、膝は曲がったままになっていたかもしれません。足首は伸びたまま、つま先立ちのような状態になっていたかもしれません。そして、拘縮の改善に時間を取られ、効果的な筋力トレーニングができず、回復は間違いなく遅れていたでしょう。

椅子(車椅子)に座ったり、立っている時間が十分でない間は、ベッド上で「足首を伸ばさない」「膝を曲げない」ように心がけてください。私は体位変換(体交)を止めるまでの約13ヶ月間、図2のセッティングを続けました。
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リハビリ

リハビリの内容について、リハビリ病院に転院する前と後に分けてご紹介します。

転院前

転院前は以下の理由で濃密なリハビリを受けることができませんでした。

・人工呼吸器を使用しており、ベッドから離れられなかった
・リハビリを受けられる時間は一日当り一時間程度だった
・リハビリを受けられる日数は週四日程度だった

ギラン・バレー症候群で長く体を動かせなくなった上に、十分なリハビリを受けられないと、関節の拘縮と筋・腱の短縮を避けることは困難です。そうした状況にも関わらず、私が足の柔軟性を保つことができたのは、家族がリハビリスタッフに代わって献身的にリハビリを行ってくれたおかげです。
患者様の重症度や病院の体制などで濃密なリハビリを受けられない場合、スムーズな回復のためにはご家族様によるリハビリがどうしても必要となります。リハビリのメニューと正しい手技を担当スタッフに指導してもらった上で、ご協力いただけければと思います。

関節は「曲げ伸ばしできる」ことが必要不可欠です。ベッド上で上述の体位を保持することも大切ですが、それだけでは「足首が伸ばせない」、「膝が曲げられない」状態になる恐れがあります。足の柔軟性を保ち、「曲げ伸ばしできる」状態を維持するためには、

・関節を可動域全体に渡って動かす
・耐えられる痛みの範囲内で筋肉と腱をストレッチする(伸ばす)

これらをできる限り回数多く行うことが効果的だと思います。また、筋肉や腱をしっかり伸ばすためには持続的なストレッチ(一回当り十秒から二十秒程度を目安)が効果的です。

以下に実際に行ったメニューをご紹介します(一日置きに行いました)。これらは理学療法のメニューとしては一般的なものだと思います。必ず担当スタッフの指導を受け、正しいやり方で患者様の状態に合ったリハビリを行って下さい。
ギラン・バレー症候群, 膝のリハビリ
ギラン・バレー症候群, 足首のリハビリ

ギラン・バレー症候群, 股関節のリハビリ
ギラン・バレー症候群, 足指のリハビリ


転院後

リハビリ病院に転院後は毎日三時間(PT、OT、ST各一時間ずつ)のリハビリを受けられるようになり、家族にリハビリを行ってもらわなくても拘縮の心配はなくなりました。

転院してすぐ、足の装具を作製することになりました。自分が装具を着けるという事実に始めは戸惑いました。また、装具を使わなくてもベッド上で立ったり、歩いたりするための筋力トレーニングを行い、十分な筋力がついてから実際に立ち、歩けば良いのではないか、という思いもありました。ですが、

・早期からの歩行訓練は他のリハビリに比べて効果が高いとされている
・装具を使用することで立位や日常動作の訓練も可能になる

という担当スタッフの説明を聞き、戸惑いは払拭されました。この方針でリハビリを進めたことが、ほぼ普通に歩けるまでに回復した要因の一つだと思います。

私が作製した装具は長下肢装具(ちょうかしそうぐ:太ももから足底までの装具)です。膝と足首部分をロックすることで、膝を伸ばしたまま、足首を反らせたまま(90度)固定できます。それにより、筋力が十分でない状態での立位や歩行が可能となります。また、私の装具は回復に応じて三段階の長さ調節が可能なタイプのものでした(下図をご参考下さい)。股関節周りの筋力(特にお尻の筋力)回復に応じて大腿部を取り外し、半長下肢装具(はんちょうかしそうぐ:膝から足底までの装具)として使用できます。さらに、膝を伸ばす筋力が回復してくれば膝関節部を取り外し、短下肢装具(たんかしそうぐ:膝下から足底までの装具)として使用します。最終的に足首を反らせる筋力が回復した段階で、完全に装具を外すことができます。
料金は約二十五万円でした。医療保険を利用したので実負担額はその三割でしたが、制度上まず全額を支払い、後日七割が還付されました。作製期間は、微調整も含め一ヶ月程度でした。決して安価なものではありませんが、ギラン・バレー症候群からスムーズに回復するためには必要ではないかと思います。
ギラン・バレー症候群, 装具


リハビリは毎回最初に足をストレッチし、残りの時間は立位保持や歩行、座位からの立ち上がり、階段昇降、マット上でのトレーニングなど、回復に応じた訓練を行いました。
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立位 

長期間寝たきりだった状態から立位になると、急激に血圧が低下したり、心拍数(脈拍)が増加する可能性があります。また、膝や足首に体重がかかるため、痛みが出る恐れもあります。そこでまず、傾斜起立台(tilt table)でのリハビリから始めました。傾斜起立台とは0度から90度(立位)まで角度を調節できるベッドです。私の場合、45度から始めて、15度ずつ段階的に角度を上げていきました。最初のうちは血圧が下がり、脈拍数も増加していましたが、半月ほどで、15分間の立位(85度)でもそれらを正常値に保てるようになりました。さらに、担当スタッフに補助してもらいながら、立位で膝を曲げ伸ばしする訓練を行いました。最終的には起立台を使わず、実際に装具を着けて立位訓練を行い、すぐに歩行訓練に移りました。
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歩行 

歩行器)
転院後約1ヶ月でU字歩行器を使った歩行訓練を開始しました(両足に装具を着けて訓練)。膝を伸ばす筋力をつけるため、ベッド上で負荷をかけてもらいながら膝を伸ばすトレーニングも並行して行いました。歩行距離は始めは10m程度でしたが、半月で60m程度に延びました。約2ヶ月間の訓練を経て(転院後約3ヶ月で)歩行器を使わずに歩けるようになりました。 

装具)
歩行器を使わなくなって以降、始めのうちは担当スタッフに両脇を軽く支えてもらいながら歩いていました。ですが、訓練を続けていくうちに補助無しでも歩けるようになり、歩行距離も延びていきました。

 装具無しで歩けるようになるために、私は特に

・股関節周りの筋力(足の振り出し等に必要)
・太ももの前面の筋力(膝を伸ばすために必要)
・すねの外側の筋力(足首を反らせるために必要)
・ふくらはぎの筋力(地面を蹴るために必要)

の回復を目的として歩行訓練と以下のリハビリ、自己トレーニング(後述)を並行して行いました。

1)ベッド上で負荷をかけてもらいながら膝を伸ばす
2)エアロバイク
3)スクワット
4)膝を曲げたままで歩く
5)つま先立ち
  (3〜5は平行棒に手を付きながら行いました) 

そして、転院後約3ヵ月半で大腿部を取り外すことができ、半年頃に装具なしで歩けるようになりました(経過は下図をご参考下さい)。装具が外れてからも歩行訓練と2〜5のリハビリは継続して行いました。
ギラン・バレー症候群, 装具

歩行がある程度安定してからは院内だけでなく、病院の外も積極的に歩くようにしました。院内のフラットな廊下だけでなく、凹凸や起伏のある外の道を実際に歩くことは退院後の生活を考えた場合に非常に重要です。

トレッドミル)
転院後10ヶ月頃からトレッドミル(ルームランナー)を使って歩行スピードを上げるためのリハビリを開始しました。一般的な歩行スピードは時速4km〜5km、急ぎ足で時速6km程度と言われています。
始めは時速1.5km程度が限界でしたが、時速0.5kmずつ徐々に速度を上げていき、退院時には(転院後18ヶ月)時速4km〜4.5kmで歩けるようになりました。この時、安定して歩ける時間は10分程度、距離にしておよそ700mでした。
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立ち上がり

日常生活では、立つ、歩く以外に椅子等から立ち上がる動作も必要です。そこで、転院後3ヶ月から半年まで、座位から立ち上がるリハビリを行いました(下図をご参考下さい)。
電動ベッドに腰かけ、ベッドの高さをやや高めに(膝が軽く曲がる程度に)調整して訓練を行いました。始めのうちは担当スタッフの補助が必要でしたが、徐々に自力で立ち上がれるようになりました。その後、腕の筋力回復に伴い、座面や肘掛けに手を付き腰(お尻)を上げられるようになったことで、より低い位置から立ち上がれるようになりました。それ以降はリハビリや自己トレーニングを行いませんでしたが、普段の入院生活の中でベッドや椅子(車椅子)、洋式便座等から立ち上がることで十分な筋力トレーニングになっていたと思います。
退院する頃には、座面を手で押して腰を上げれば、低い位置(25cm程度)からでも立ち上がれるようになりました。また、居間や浴室で床に座った時でも、テーブルや浴槽に手を付けば立ち上がれるようになりました。さらに、体勢を工夫すれば、何も使わずに床から立ち上がれるまでに回復しました。
ギラン・バレー症候群, 立ち上がりのリハビリ

転院後7ヶ月から階段昇降の訓練を開始しました。まず、左右両側に手すりのある訓練用の階段(段差は12cmと15cmの二種類)でリハビリを行いました。2ヶ月間の訓練により、両手で手すりを持てば安定して昇降できるようになりました。
その後、実際に病院の階段(手すりは片側のみで、段差は18cm)で訓練を行いました。始めは手すりを持ちながら、次に壁に手を付きながら昇降し、転院後14ヶ月で手を使わずに昇降できるようになりました。退院時にはゆっくりではありますが、手すりや壁に手を付かずに四十段(一階から三階までに相当)の階段昇降が可能になりました。
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その他のリハビリメニュー

転院後8ヶ月頃から、足全体の筋力回復のために歩行訓練や階段昇降に加えて下記のリハビリを開始しました(下図をご参考下さい)。これらの多くは股関節周り(足のつけ根やお尻)を中心に足全体の筋力回復につながります。また、これらは足だけでなく、体幹部(腹筋、背筋)の筋力回復にも効果的です(体幹のページ「リハビリ>転院後」をご参考下さい)。

・四つ這いで移動する
・四つ這いで片足を上げて保持する(下図-1)
・膝立ちで移動する
・膝立ちで足を振り出す(下図-2)
・横向きに寝て、負荷をかけながら足を開く(下図-3)
・仰向けで膝を曲げ、お尻を上げる(下図-4)
・膝の間にボールを挟み、ボールを潰すように膝を閉じる

以上のメニューはマット上で行いました。また、平行棒でバランスボードを用いたトレーニングも行いました(下図-5)。
ギラン・バレー症候群, マット上でのリハビリ

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自己トレーニング

回復に合わせた自己トレーニングは、ギラン・バレー症候群からの回復に非常に効果的だと思います。以下に、回復に応じた自己トレーニングの内容をご紹介します。

装具が外れるまで(転院後半年まで)
主にベッド上で下図のトレーニングを行いました。
ギラン・バレー症候群, 足の自己トレーニング



一人で歩けるようになるまで(転院後半年〜8ヶ月)
ベッド脇で以下のトレーニングを行いました。

・立位の保持
・スクワット
・つま先立ち

また、膝を伸ばす筋力の回復のために下図のトレーニングを行いました。
ギラン・バレー症候群, 足の自己トレーニング


一人で歩けるようになってから(転院後8ヶ月〜退院)
歩行の自己トレーニングを中心に行いました。毎日、起床後と就寝前にそれぞれ三十分から一時間程度歩くようにしていました。起床後と就寝前を選んでトレーニングしていたのは、その時間帯が一日のうちで最も体が動き辛いと感じていたためです。そうした時間帯でも安定した歩行を心がけ、実践することは非常に効果的だと考えました。その結果、始めのうちは100m以下だった歩行距離が退院時には1.5km程度にまで延び、それと同時に歩行スピードも上がっていきました。
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以上が足の筋力回復のために実際に行ったリハビリと自己トレーニングです。内容に関してご質問等がある場合はお問い合わせページからご連絡下さい。